令和4年司法試験再現答案:刑法【C評価:刑事系82.75点】

設問1(1)

1 甲は、Aに頼まれて本件バイク(以下「バイク」)を保管している。しかし、バイクはBの所有物であるため、A甲間の委託信任関係には本件の裏付けがない。そこで、本件の裏付けのない委託信任関係も252条で保護されるかが問題になる。

2 法律関係が複雑化した現代では、窃盗罪(235条)で本件の裏付けのない占有も保護されるのと同様に、本件の裏付けのない委託信任関係も保護すべきであると解する。

3 よって、本件の裏付けのないA甲間の委託信任関係も252条で保護される。

そのため、これを「横領」すれば横領罪が成立する。

4 よって、本問主張は妥当である。

設問1(2)

1 横領罪の本質は、a委託信任関係に背いたb本権侵害にある。そこで、「横領した」とは不法領得の意思(a委託の趣旨に背き、bその物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思)の発現行為をした、と解する。

2(1)たしかに、甲はAに「預かってくれないか」と「保管」を依頼されたのに対し、甲の実家の物置に置いて「保管」している以上、a委託の趣旨に背きbバイクにつき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思(不法領得の意思)がなく、本問行為は「横領した」にあたらないとも思える。

(2)しかし、Aはバイクを甲のガレージに保管させようと考えていた。それで「預かってくれないか」と保管を頼んだ。甲もこれを承諾し、バイクをガレージに入れた。

甲実家は5kmというバイクなどの乗り物に乗らないと相当長距離離れた場所で、甲は「そこに移動させればAに見付からないだろう」と考えてバイクを実家の物置に隠した。

とすると、たとえ物置に置いていることが「保管」でもこのような本問行為はAの合理的意志に反する。

よって、A甲間では黙示的に甲のガレージで保管することについての委託信任関係しかなかった。

それなのに本問行為をしたのはa委託の趣旨に背きbバイクにつき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思、つまり不法領得の意思の発現行為をしたといえ、「横領した」にあたる。

3 よって、本問主張は妥当である。

設問2

第1 乙がAを本件ナイフ(以下「ナイフ」)で刺した行為1に傷害罪(204条)が成立しないか。

1(1)18cmと長くて殺傷力のあるナイフを背後かつ無警告という無防備なAの右上腕部を強く突き刺した行為1は、Aの右上腕部刺創の傷害の現実的危険ある実行行為である。

(2)Aは加療約3週間の右上腕部刺創の「傷害」を負った。

(3)ア 行為1がなければ上記結果は生じなかったから条件関係が認められる。

イ 行為1の上記危険が結果に現実化したといえるから法的因果関係も認められる。

ウ よって、因果関係が認められる。

(4)行為1の態様から傷害「罪を犯す意志」(38条1項本文:故意)も認められる。

(5)よって、行為1は同罪の構成要件に該当する。

2 行為1は正当防衛として違法性阻却されないか(36条1項)。

(1)まずAが甲の顔面を殴打しようと拳を振り上げた行為cに正当防衛が成立して違法とはいえないことが考えられるため、行為cが「不正の侵害」にあたるかが問題になる。

ア たしかにまずAが右手の拳を突き出して甲の顔面を殴打しようとした行為aをしたことに対して、甲が本件包丁(以下「包丁」)をAに突き出した行為bをした。行為bは行為aと時間的場所的に近接しているし、行為bは行為aによってAが自ら招いたといえる。

しかし、包丁を使った甲の攻撃(b)の程度は、素手の行為aを超えるから、行為bを受けるほど行為aにはこの点で違法性の本質たる社会的相当性がないとはいえない。

イ もっとも、Aは甲の発言を聞いて激怒し、甲に殴る蹴るなどの制裁を加えようと考えていた。そして、行為aの前にも「ボコボコにしてやる」等言っていた。とすると、その時点でAには積極的加害意志が認められる。

また、ひるまずに行為cをしたから、その際も上記意志を有していたといえる。

とすると、侵害が「急」に「迫」ってくると評価困難だから行為bに「急迫」性は認められない。

ウ よって、行為cに正当防衛は認められない。

エ よって、行為cは少なくとも暴行罪(208条)にあたる違法な「不正の侵害」といえる。

(2) 法益侵害が現に存するといえるから、行為cは「急迫」性が認められる。

(3) 乙は甲を助けようと考えていたため、甲という「他人の」身体という法益(「権利」)に対する防衛の意思が認められるので「防衛するため」といえる。

(4) 乙Aはいずれも20代の男であり、各人の体格に大差はなかった。

しかし、行為cは素手でされていたのに対し、行為1は上記の通り殺傷力のあるナイフを用いてされたから必要かつ相当とはいえず、「やむを得ずにした行為」にはあたらない。

(5) よって、行為1は正当防衛として違法性阻却されない。

3 乙は行為1の際、問題文1から4までの各事実を知らず、また、甲が包丁を持っていることも認識しておらず、Aが甲に対して一方的に攻撃を加えようとしていると思い込んでいた。そのため、責任故意(38条1項本文)が阻却されないか。

(1)故意責任の本質は規範に直面したのにあえて行為をしたことに対する非難にある。そして正当防衛として違法性阻却されることを基礎づける事実の認識があれば規範に直面していないといえるから責任故意が阻却されると解する。

(2)上記の通り、行為1は「やむを得ずにした行為」にあたらず、この過剰性の認識を乙は有していただろうから、正当防衛として違法性阻却されることを基礎づける事実の認識がなかったといえるから規範に直面していたといえ、責任故意は阻却されない。

4 よって、行為1に傷害罪が成立する。

5 なお、客観的に「急迫不正の侵害」が存在する以上、違法性の減少が認められるため、刑の減免の余地はある。

第2 乙が本件原付(以下「原付」)を発進させた行為2に窃盗罪(235条)が成立しないか。

1(1)原付は「他人」Dの占有する「財物」にあたるか。

ア たしかに、行為2の際Dはその場にいなかった。また、原付が停めてあったのは道路上という公衆が自由に出入りできる場所である。

イ しかし、原付はDが一時的に停めていたにすぎず、Dは行為2の際配達のために付近のマンション内に立ち入っていた。とすると、行為2の際に甲は場所的に近接した地点にいたし、時間的にも近接していたといえる。

また、エンジンキーがかかっていたことからもDがすぐに戻ってくる意志がうかがえる。

ウ よって、原付はDの占有する「財物」にあたる。

(2) 行為2はDの意思に反する占有移転といえるから、「窃取した」にあたる。

(3) 行為2の態様から故意は認められる。

(4) 窃盗罪とa不可罰的な使用窃盗及びb軽い毀棄隠匿罪とを区別するために不法領得の意思(a権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてbその経済的用法に従って利用処分する意思)を要する。

a 原付はガソリンの消耗を伴うし、自転車より高価である。さらに、乙は行為2の際「安全な場所」という相当距離離れた場所に原付を放置する意思を有していた。よって、権利者排除意志は認められる。

b 原付を使う意思を甲は有していたから利用処分意志も認められる。

よって、甲に不法領得の意思が認められる。

2 行為2は緊急避難として違法性阻却されないか(37条1項本文)。

(1)Aが乙を背後から追跡しているため、法益侵害が間近に押し迫っているといえるから、「現在の危難」が認められる。

(2)行為2はAから逃げるためにされている以上、「自己~の~身体~に対する」上記危難を「避けるため」にされたといえる。

(3)Aは乙よりも足が速く、乙がAの追跡を振り切るためには、原付を運転して逃げることが唯一取り得る手段だったから「やむを得ずにした行為」にあたる。

(4)「これによって生じた害」はDの財産権侵害であり、「避けようとした害」は乙の身体侵害であるから、前者の害が後者の「害の程度を超えなかった」といえる。

(5)よって、行為2には緊急避難として違法性阻却される。

3 よって、行為2に窃盗罪は成立しない。

以上

【感想】

刑法は時間的な余裕を感じたのもあり、些末な点を厚く論じすぎた感があります(設問2行為1の実行行為や因果関係など)。

それよりも行為2の最後のほうや見直しに時間を充てるべきでした。

(そもそも気づかぬ論点があり、論じ落としがあるのかもしれませんが。)

そのため、次の刑訴は「欲張らない」ことをテーマに掲げ、実践できたと思います。

設問1は「各主張の当否」について論じるもので、ちゃんと問いに答えたかなと若干不安ですが、多分大丈夫だと思います。

「252条1項」としないといけないところを「252条」としてしまったのは、今年の法文の関係かなと思います。

(1項と2項で改行されている。)

設問2の行為1は最後の「なお書き」が余計だったし、過剰防衛を書くべきでしたし、ほかにも全体的にどこか変なことを書いていてもおかしくないなと思いました。

行為2は正当防衛も書きたかったのですが、時間不足で書けなかったです。

自招危難も構成段階では書きましたが、答案には書けなかったと思います。

それにしても、故意責任の本質のテンプレが頭から飛んだのは焦りました。

『非難にある』とすべきところを「『制裁にある』だったっけな」とか思ったものの違和感があったのでいったん先に進んでまた考え直して思い出せました。

司法試験は予備試験と違って、深い検討が求められますが、それでも時間には限りがあるのでメリハリを持った論述が大事だと身をもって実感しました。

とにかく今回は再現を書いていて一番緊張して、脇汗もかきました。

刑事系は本当に怖い。

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※2022年10月1日追記

本試験成績を受け、刑法の結論を1つ書き忘れた可能性が大きいと思いました。

本来ぼくは結論先出し型なのですが、本試験では問題がやさしいと思ったことから、何を血迷ったのか結論を後に書く方法を取りました。

それでどこかの犯罪を1つ、具体的には傷害罪の結論を書き忘れたのではないかと思っています。

この考えは本試験後にふと思ったものの、終わったことを考えても仕方がないと思い、封じ込めたものでした。

再現答案を参考にする際は、この点もご留意ください。