令和元年予備論文試験再現答案:憲法【A評価】

第1 乙の本件評価は、Xの水泳の授業に参加しない自由を制約しているか違憲ではないか。

上記自由は、女性は家庭内以外においては、顔面や手など一部を除き、肌や髪を露出し、あるいは体型がはっきりわかるような服装をしてはならないというXが“信仰“するB教の重要な戒律との関係で水着(学校指定のものはもちろん、肌の露出を最小限にしたものも含む。)を着用することができないことによるから、「信教の自由」(憲法20条1項前段)として憲法上保障される。そして、元々内心にあった信仰心が水泳の授業によって外部に出たので「信教の自由」の中でも信仰の自由にあたる。なお、XはA国民という外国人だが、「信教の自由」は前国家的性質を有するので、Xも「何人」にあたる。とすると、Xの上記自由は憲法20条1項前段によって保障される。

としても、内心にとどまっていないので、「公共の福祉」(13条後段)に基づく最小限の制約に服する。

第2 ここで、最小限かどうかの審査基準が明らかでない。

まず信教の自由は、一度侵害されたら民主政の過程で是正困難な精神的自由権である。さらに、信仰の自由は信教の自由の核心である。

また、Xの上記自由はXの希望する「教育を受ける権利」(26条1項)ともみれるが、これは「法律」による具体化を要する抽象的権利である。なお、教育を受ける権利は性質上後国家的性質を有するので日本国民のみを対象とすると思われるが、適法に滞在している定住外国人Xは国籍国から保障を受けるのが困難であろうから「国民」にあたりうる。

一方で乙は、教育内容決定権(23条、26条)を有するが、その内容を決める教員は「公務員」であり「全体の奉仕者」である(15条2項)。

そして、Xの上記自由が制約された当時、Xは中学生という未成年であり「尊重される」べき「個人として」未成熟なのでパターナリスティックに基づく制約に服する(13条前段)。

そこで、やや厳格な基準、具体的には、①正当な目的を達成するために②より制限的でない他に取り得る手段がないなら最小限と解する。

第3 ①本件評価の目的は、水泳の授業について代替措置を一切とらないことの理由として、信仰に配慮して代替措置をとることは教育の中立性に反するおそれがあるとされてることから、「国~の機関」(20条1項前段)たる甲市立乙中学校が「宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない」という政教分離を徹底して、Xを特別扱いしないことにあると解される。また、代替措置の要望が真に信仰を理由とするものかどうかの判断が困難である。さらに乙の生徒(4分の1がA国民で、そのほとんどはB教徒)に相当割合いるB教徒の女子生徒で戒律との関係で葛藤を抱きつつも水泳の授業に参加している者もあり、Xらの要望に応えることはその意味で公平性を欠く(14条1項)。さらに、仮にXらの要望に応えるとすれば、見学が増える一方で水泳授業への参加者が減少して水泳の実施や成績評価に支障が生じる恐れがあり教育内容の決定権(23条、26条)も害されるおそれがある。とすると、本件評価の目的は正当である。

②ここで、Xの求めた代替措置の実施が政教分離に反するなら目的を達するためにより制限的でない他に取りうる手段はないと解する。

政教分離の趣旨は、戦前の国家神道体制の反省から、信教の自由(20条1項前段)への侵害を予防するために、政教分離を制度として保障した点にある。

しかし、福祉国家(25条~)の見地から、国または宗教との関わり合いが相当とされる場合を超えるもの、具体的にはa目的が宗教的意義を持ち、b効果が宗教の援助・助長・促進または圧迫・干渉となる場合に政教分離に反すると解す。

aXの求める代替措置をとればXが信仰するB教に配慮することになるから宗教的意義を持つ面もあるといえる。

b水泳の授業は必修とはいえ、強制する必要性は小さいし、Xが自主的にやっていたプールサイドでの見学及びレポートの提出という代替措置で同等の教育効果が得られるのだから、代替措置をとってもXを特別扱いしたことにならない。

さらにXは水泳以外の保健体育の授業及びその他の学校生活については服装に関して特例が認められた上でほかの生徒と同様に参加している。とすると、XがB教によって授業に参加できないのは一時的なもので、他の生徒への影響は小さい。そうすると、Xの申し出た代替措置の実施は宗教の援助・助長・促進とならない。

とすると、Xの求めた代替措置の実施は政教分離に反しない。

なお、上記のように葛藤を抱きつつ水泳の授業に参加してる女子生徒もいるが、信仰の自由は上記のとおり信教の自由の核心であり大事なものであるから葛藤を抱かずにXと同じように代替措置を取ればよいのである。

よって、①の目的を達成するために②より制限的でない他に取りうる手段はあるから本件評価は最小限でない。

第4 以上のことから、本件評価は違憲である。

以上

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