設問1
(1)たしかに共犯者がいたほうが責任が軽くなり得るので、Bが本件被告事件にAが関与したという供述はこの点で信用性が低い。
しかし、3月1日の夜にAから電話でお金を奪うことを持ちかけられた旨の供述は、3月1日午後8時32分に『A』からの着信があり、約14分間というある程度話した事実(証拠⑫(以下「証拠」略))と符合する。
本件サバイバルナイフ(⑫)にはBの指紋がついている(⑭)。これはBがどこかの時点で同ナイフに触れたことを意味する。同ナイフはAの父のものであるが、Aの父とBはここ数年会っておらず貸したこともない。そのため、同ナイフは3月7日のAの父の釣り後から3月10日午後3時までしかBに触れるチャンスはない。そうすると、その間にAが同ナイフを持ち出してBに渡したことがうかがわれる。これは、同ナイフについてAがBに『親父のだから~』と言いながら渡してきた供述(⑩)と符合する。
犯行後30分ほどたった頃、Uの駐車場に車を止め、Aに本件キャッシュカードやナイフを渡して暗証番号を伝え、Aが『もう使えなかった』という供述(⑩)は、A方で同カードやサバイバルナイフが見つかったこと(⑫)や3月9日午後1時38分に黒ワンボックスカーがUT店の駐車場に止まり(⑦)、午後1時40分にUT店のATMにキャッシュカードが挿入され、出金捜査が行われたが未遂に終わったこと(⑥)と符合する。
現金500万円のうち300万円をAがもらった供述(⑩)は、3月9日時点でYZに借金があったAが3月10日にYに100万円、Zに200万円返済していること(⑯)と符合する。
Bは取り調べに対し、一貫して本件犯行を認め⑩と同旨の供述をしていた(⑯)。そうするとB供述は具体的で一貫していると言える。ウソを具体的に一貫してつき続けるのは難しいので、本件被告事件に関与したのはAであるとする供述部分(以下「本件部分」)も含めて本当にであることがうかがわれる。
よって、B供述の本件部分は信用性が認められる。
(2)Aに共謀共同正犯が成立するためには、aAに自己の犯罪として積極・主体的に犯行を実現する意思(正犯意思)とb意思連絡(ab併せて共謀)、c共謀に基づく実行行為が必要である。
3月1日夜にAから電話で本件犯行を勧誘している。これはAが積極的な意欲があることをうかがわせる(a)。また、この勧誘についてBは承諾しており、ほかにも何回かABは接触して、その後話し合い具体的に計画を立てているため、意思連絡もある(b)。AはBに宅配業者のような服とVを縛る道具を用意するように言い、ナイフも渡して、車の運転もしているので、積極的な関与がある(a)。Vから奪った現金の半分以上たる300万円を取得したAには積極的な犯行の動機があったことや、Bより支配的な地位にあり積極的な関与があることもうかがわわせる(a)。AがBの地元の先輩であるなどの事情もBより支配的な地位にあることをうかがわせる(a)。
この共謀に基づいて、Bが本件犯行をした(c)。
よって、Aに共謀共同正犯が成立する。
設問2
公判前整理手続きの趣旨は、充実した公判審理を継続的・計画的・迅速に行うために、争点及び証拠を整理する点にある(刑訴法316条の2第1項参照)。
弁護人の「AがBと共謀した事実は無く、Aは無罪である」との主張から、争点はAB間の共謀の有無である。この争点を証明・推認する証拠・間接事実がどれかを具体的にしてほしかったため、裁判所は追加の証明予定事実記載書の提出を求めた。
設問3
「罪証~隠滅~理由」(81条本文)は、a対象、 b態様、c客観的可能性、d主観的可能性から判断する。
BはAとの共謀を供述しており、㋒の時点ではまだ証人尋問も終わっていないので「罪証」として貴重と言える(a)。AはBの地元の先輩であり、支配的な立場にあるから接見を許せばAの同級生などの知人に指示して、Bを威圧して供述を変更させる客観的可能性がある(b・c)。A側は共謀を否定しているので主観的可能性もある(d)。
よって、㋒の時点では「罪証~隠滅~理由」があった。
しかし、㋓の時点ではBの証人尋問が終わっている。そのため、「罪証」としての価値が乏しくなり(a)、客観的可能性も無くなった(c)。よって、「罪証~隠滅~理由」がなくなった。
このように㋒と㋓で状況が異なっているため、異なる対応を採った。
設問4
(1)公判前整理手続きの時点で⑩の存在をA側は知っており、証拠調べ請求もできた。しかし、その時点でBが⑩と違う供述を証人尋問でするとは考えられなかったので、証拠調べ請求をしないことに十分な理由があった。それなのにBが作業着やロープを用意した人物について⑩と違う供述を証人尋問でした。そのため、この供述の証明力を弾劾するために⑩の証拠調べが必要になったと言える。よって、「やむを得ない事由」(316条の32)がある。
328条の趣旨は、自己矛盾供述はその存在自体により証明力を弾劾し、内容の真実性が問題とならない非伝聞となることを注意的に規定した点にある。とすると、「証明力を争う~証拠」とは自己矛盾供述と解する。
上記通り⑩は証人尋問と矛盾するから自己矛盾供述と言える。よって、⑩は「証明力を争う~証拠」といえ、証拠能力が認められる。
(2)上記通り、自己矛盾供述は非伝聞なので、「同意」(326条1項)ではなく、「異議なし」と述べた。
【感想など】
令和4年の信用性の問題は、令和3年の信用性の問題と比べて普通に難しかったです。
これを
「いつも通りだね。」
「簡単。」
みたいに言う講師は受験生感覚がありません。
実際にA評価の再現答案でもちぐはぐなことを書いています。
ぼくの答案も設問1(1)の4段落目が変かなと思います。
「Bと一緒にいたもう一人の男」をAと認定するのが難しいです。
事実認定については、御堂地雅人先生(元TAC/Wセミナー講師)の以下のnoteがすごくわかりやすかったです。