令和4年予備試験民事実務基礎科目:参考答案

設問1

(1)請負契約に基づく報酬請求権 1個(以下、「訴訟物1」)

履行遅滞に基づく損害賠償請求権 1個(以下、「訴訟物2」)

(2)被告は、原告に対し、300万円及びこれに対する令和4年5月29日から支払い済みまで年3分の割合による金員を支払え。

(3)ア XはYとの間で、令和4年(以下「令和」略)2月8日、本件工事を代金1000万円で請け負った。

イ Xは4年5月28日、本件工事を完成させた。

ウ Xは同日、本件建物をYに引き渡した。

エ 同日は経過した。

(4)1 訴訟物1

請負契約(民法632条)では、「完成」すべき「仕事」と「報酬」が要素となるから、これを具体的に特定する必要がある(ア)。

報酬は仕事の目的物の引渡しと同時に支払わなければならない(633条本文)が、その前提に仕事が完成していることを要する(イ)。

2 訴訟物2

債務の発生原因事実としてアとイの主張を要する。

請負契約は双務契約であるため、報酬の支払いと目的物の引き渡しは同時履行の関係に立つ(533条本文)から、代金支払い債務に同時履行の抗弁権が付着していることが基礎づけられている。この抗弁の存在効果の消滅を主張するためにウの主張を要する。

損害金が発生するのは、引渡しの翌日であるからエの主張を要する。

設問2

(1)(ⅰ)YはXに対して、4年5月28日、本件契約の債務の履行として700万円を支払った。

(ⅱ)本件契約の請負報酬債権は1000万円であったが、Xが本件訴訟で請求しているのはそのうちの300万円である。そうすると、一部請求訴訟と言える。一部請求をする原告の意思は、あらかじめ債権全額から弁済額を控除した額を請求し、その額は獲得したいというのが通常である。そのため、請求の外側である700万円の部分から消滅することになる(外側説)。よって、(イ)だけでは抗弁として機能しないので(ア)が必要である。

(2)本件350万円の損害賠償債権を自働債権として、Xの300万円の報酬債権と相殺する(505条)旨の抗弁を主張する。なお、本件350万円の債権には同時履行の抗弁権が付着している(533条かっこ書き)が、両債権は同一の原因関係に基づく債権であり、相殺による清算的調整を図るのが当事者双方の便宜と公平に適うため相殺は認められる。

また、本件350万円の請求をする反訴(民訴法146条)をする。

設問3

1 XとYが本件契約を締結した事実を直接証明する証拠は無い。本件契約の契約書は作られていないし、本件見積書①(以下「本件見積書」略)や②はあくまでも見積もりに過ぎないからである。

2 ①は、見積もりという行為がなければ通常は作成されない類型的信用文書である。そうすると、①は形式的証拠力が認められれば特段の事情のない限り、実質的証拠力が認められる。①の「成立」(民訴法228条1項)についてY側が認めているので、形式的証拠力が認められる。また、①についてYは銀行に提出している(XY供述)から実際に①の通りにXが見積もりを出したことがうかがわれる。なお、Yは①について運転資金として300万円を上乗せして銀行から融資を受けたいと考えて、Xにお願いして①を作ってもらったと言う。しかし、何らかの恩がYにあるわけではないXが銀行を欺くリスクを冒す動機がないからYの供述は信用できない。よって、特段の事情はないので、①からXがYに1000万円の見積もりを出したことが認められる。

3 ②も類型的信用文書でありX側が形式的証拠力を認めた。しかし②はYから賃貸人に承諾を貰うために、大掛かりなリフォームに見えないようにするために、外壁工事の項目を除いた見積書を作ってほしいと頼まれて作成したものである。実際に②は賃貸人にYが見せている(Y供述)ことがからこのことがうかがわれる。また、Xは外壁工事を行っている一方で②には同工事が書かれていない(XY供述)。このように②は実際に行われていることと一致しないから、Xは②にある通りに見積もりを出していないと言える。なお、YはXが外壁工事分をサービスすると言ったと主張している。しかし、10年来の付き合いとはいえ、300万円もの大金を特に恩もないYに対してXがサービスするとは考え難いからYの主張は信用できない。よって、特段の事情が認められず、Xが700万円の見積もりを出したことは認められない。

4 1000万円もの報酬の本件契約について契約書を作らなかったのは不自然とも思える。しかし、XYは10年もの付き合いがあるため、信頼関係があるので不自然ではない。

5 2でXが1000万円の見積もりを出した事実が認められた。そして4年2月8日に本件工事に関する請負契約はあった(XY供述)。そうすると、①のほかに契約代金に関する証拠がない以上は、1000万円で契約したと考えるのが合理的だから本件契約を締結した事実が認められる。

設問4

結論

できる。

理由

設問2(2)にあるようにYは相殺権を行使して請求異議の訴え(同1項)をすることが考えられる。

たしかに「確定判決~の異議の事由」は「口頭弁論終結後に生じたもの」(民執法35条2項)が原則である。

しかし、この趣旨は口頭弁論終結時以前に生じたものについては当事者に手続き保障がされている点にある。そうすると、口頭弁論終結時以前に提出が期待できないものについては実質的に手続き保障を欠くから異議の事由にできると解する。

相殺権は口頭弁論終結時以前に生じている。しかし、相殺の抗弁は、これを主張すると経済的損失を伴う実質的敗訴となるから、口頭弁論終結時以前に提出することが期待できないといえる。

よって、Yは相殺権行使を異議の事由にすることができる。

【感想など】

請負契約は予備口述で出ているので、サプライズではなかったと思います。

(要件事実は口述で問われているところからの出題が結構あります。)

(もっと言うと、司法書士の認定考査試験でも請負は出ています。

なお、六法は見れません。)

設問2(1)は、ぼくはわかりませんでした。

(2年前の予備合格時のぼくでもわからなかったと思います。)

現場なら飛ばします。

ぼくがわからないことはみんなわからないし、準備書面に点が振られているからです。

準備書面の直接証拠の有無は間違えました。

でも、再現答案を見るとA評価3人中3人が同じように間違えています。

なので、「現実解」としてぼくの答案も良いでしょう。

ってか、原告も被告も自分に都合の良いことを普通言いますよね?

今までも直接証拠になるような原告・被告の供述があったと思いますが、直接証拠の筋は見たことがありません。

なので、今回は「直接証拠か~」となりました。

でも1回こうやって出たら、原告・被告の供述が直接証拠になることを前提に論じたほうが良さそうですね。

解いていて、準備書面が一番スラスラいきましたし、楽しかったです。

人が萎えるのは「以前できていたことができなくなること」です。

知識は特に使わないと衰えます。

でも準備書面は知識ゲーではありません。

民事実務は2年ぶりだったので、準備書面の処理手順は解く前に一応確認しました。

でもたったそれだけで

「全盛期に近いものが書けたのでは?」

という感触は収穫でした。

【さいごに】

予備試験の受験指導の傍ら参考答案作成を始めました。

1個1個ぼくの「資産」にしていきます。

なお、ぼくがアップするのは「完全解」ではなく、あくまでも「参考答案」です。

「そんなこと現場でそんな書けんやろ!?」

ということは厚く書いていません。

たとえば、設問1(4)です。

(問題文にも「簡潔に」と書いてるしな。

あと、判例に言及しないでもAは来る。

「踏まえて」としか書いていないし、現場で請負の判例も出てこんわ。)

ここで欲張って書くと自滅するので要注意です。

ここに時間を使うくらいなら準備書面や刑事に時間を使います。

設問1は序盤オブ序盤なため「時間がある」という錯誤に陥りがちなので、気をつけましょう。

「再現答案」ではなく、「参考答案」をアップするのは人生初で勇気がいりました。

でも「とりあえずやってみる精神」でやってみました。

ぜひ参考にしてみてください。