令和4年司法試験再現答案:労働法第2問【57.31点】

設問2

第1 X2は、Yに対し、契約社員に基本給月額0.5ヶ月分の賞与しか支給しないことは短時間・有期雇用労働法(以下、法名略)9条又は8条に違反するとして、主位的に労働契約上の権利として正社員との差額である基本給月額(以下「基本給月額」略)1.3ヶ月分の賞与の支払い請求を、予備的に1.3ヶ月分の賞与相当額の支払いについて損害賠償請求(民法709条)をすることが考えられる。

第2 9条違反

1 「通常の労働者」たる正社員には1.8ヶ月分の賞与を支給する一方で、「有期雇用労働者」たる契約社員X2には0.5ヶ月分の賞与しか支給しないのは、「賞与」について「差別的取り扱い」をするものである。

2 X2はYで食品衛生管理に関する事務作業に従事しているが、その職務の内容は、同じ部署で働いている入社3年目の正社員と同じであり、同部署の入社1年目の正社員に対して業務遂行について教育指導を行うこともあった。

とすると、上記差別的取り扱いはX2が「有期雇用労働者であることを理由として」されたものである。

3 上記の通りX2は「職務の内容」が「通常の労働者」と同じである。

しかし、Yの契約社員の基本給は時間給制であり、契約社員には勤務地変更に伴う配置転換はない。また、Yの正社員の基本給は経験と能力に応じた職能給制であり、正社員には勤務地変更に伴う配置転換があるほか、同社の幹部になることを視野に入れ、長期的に人材育成がなされるものとされていた。さらに、Yには、契約社員から正社員に登用される制度はない。

とすると、X2は「職務の内容及び配置変更の範囲」が「通常の労働者」と同一とはいえない。

よって、X2は「通常の労働者と同視すべき~有期雇用労働者」にあたらない。

4 よって、9条違反はない。

第3 8条違反

1 上記差別的取り扱いは、「事業主」Yが「雇用する~有期雇用労働者」X2の「賞与」について「当該待遇に対応する通常の労働者」たる正社員の「待遇」との間における「相違」である。

2(1) 「相違」の「不合理」性は、①「職務の内容」、②「職務の内容及び配置の変更の範囲」、③「その他の事情」を考慮して判断する。

(2) 賞与は賃金の後払い的性格を有しており、日頃の労働者の労働に報いる目的がある。

とすると、②の違いがあっても①が同じだから原則として上記相違は不合理である。

1.3ヶ月分の賞与相当額を契約社員に給付する事情もない(③)。

よって、上記「相違」は「不合理」である。

3 よって、8条違反がある。

第4 1 8条の文言や均こう待遇の実現という趣旨から、同条に反する相違を設ける契約部分は無効になると解する。

2 X2Y間の正社員と比べて1.3ヶ月分の賞与を支給しない契約部分は無効となる。

第5 1 9条の趣旨は同一待遇ではなく、均こう待遇にあり、また同条に直立的効力を肯定する根拠となる文言がないため、同条違反の効果として直立的効力は生じない。

もっとも、労使間の具体的規範を合理的に解釈することで、無効部分を通常の労働者の労働契約と同内容にする余地はある。

2 X2Y間契約の同条違反の結果、直立的効力は生じない。

また、Yの正社員である労働者は、ユ・シ協定に基づき、取締役を兼務する部長6名と総務部の次長・課長2名以外の全員がA労働組合(以下「A組合」)に加入しているが、Yの契約社員は、ユ・シ協定の対象外とされ、A組合に加入していない。

そして、正社員の就業規則と契約社員の就業規則は、総則と特則の関係になく、別個独立のものであるから空白部分(無効部分)が正社員の労働契約と同じ内容には補充されない。

3 よって、主位的請求は認められない。

第6 「故意又は過失によって」X2の正社員と比べて不合理な相違を受けない「法律上保護された利益を侵害した」といえ「これによって」正社員の賞与と比べて1.3ヶ月分の賞与相当額の「損害」が生じたといえるので予備的請求が認められる。

設問1

1 X1は、Yに対し、労働契約上の権利として2ヶ月分の賞与の支払いを請求することが考えられる。

2 Yでは、正社員に2ヶ月分の賞与が支給されてきた。

しかし、これは書面化されていない合意に基づくものなので、労働契約の内容となっていなかった。

もっとも、Yの全ての事業場で労働者の過半数を組織するA組合との間で合意されたものであり、30年もの長期にわたり、この取り扱いがY内で問題になることはなかった。

とすると、2ヶ月分の賞与が支給される期待は法的保護に値するものといえるから、1.8ヶ月分しか支給しないのは、「労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更する」(労契法9条本文)のと実質的に同視できる。

3 (1)就業規則による労働条件の統一的・集合的処理の要請から、労使間の合意が無くても、10条本文の周知性・合理性の要件を満たせば、就業規則を不利益変更できると解する。

(2) 改定後の就業規則は「周知」されている。

たしかに、6か月ものA組合と団交を重ね、YはA組合と書面による労働協約を締結し、就業規則が改訂されているので「労働組合~との交渉の状況」から「合理」性が一応推定される。

また、0.2ヶ月分の賞与減額は少ないとも言いうる。

しかし、賞与は毎年2回もらうものなので、0.2ヶ月分の減額でもこれが反復継続すれば「労働者の受ける不利益」は大きくなる。

また、「労働条件の変更の必要性」があるといった経営状況にYがあるといった事情もない。

代償措置・経過措置もないため、「変更後の就業規則の内容の相当性」も認められない。

よって、意見聴取義務や届け出義務(11条、労基法90条1・2項)をりせんしている「変更にかかる事情」を踏まえても「合理的」とはいえない。

よって、就業規則の不利益変更は認められない。

5 よって、2ヶ月分の賞与の支払い請求をすることがX1は原則できる。

もっとも、令和2年7月に1.8ヶ月分が支給されていることから、令和2年7月分は差額の0.2ヶ月分の請求ができるにとどまる。

以上

【感想】

普段の勉強で集団的労働契約法のほうが出題問題の幅少ないように思っていたので、第1問よりも第2問を先に解きました。

第2問の中では、設問2が比較的にすぐに分かったので設問2から書きました。

ただ、設問2の第5は「8条」ではなく、「9条」と書いてしまいました。多分。

構成用紙になぜかそう書いています。

設問1は「就業規則の不利益変更」の問題か「労働協約の不利益変更」の問題か悩みました。

集団的労働契約法が問われやすい第2問なので「労働協約の不利益変更」とも思いましたが、問題文の事情的に「就業規則の不利益変更」と思い、そのように書きました。

合っているかはわかりません。

今回第1問よりも第2問から先に解いたのですが、それよりも先に解いていた問題があります。

(問題冊子の中で一番最初に問われている)倒産法です。

本当にバカすぎるのですが、ぼくは緊張のためか倒産法を解いていました。

意味不明なことが聞かれているので、

「今年はめちゃくちゃ捻ってきやがった。」

「こんなの(加藤ゼミナール労働法)重問になかった。」

というふうに思いました。

何となく合意相殺っぽい事情もあり、倒産法であることに気づくのが遅れたんだと思います。

ミスに気づいたときにはもう5分台でした。

さすがにめちゃくちゃ焦りました。

「ぼくは本番に何をやっているんだ。」

と。

その後何とか答案を一応完成させましたが、書きたかった就業規則の不利益変更の原則論たる「合意原則(3条1項・8条)により~」を削らざるをえなくなったり、上記のように8条と9条を間違えるミスをしました。

こんなミスをするのはぼくくらいですかね。。

本当に何をやっているんだか。

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