令和4年司法試験再現答案:民法【A評価:民事系150.64点】

設問1(1)

1 本問請求は甲所有権に基づく返還請求(202条1項、200条1項)と構成できる。

2 (1) AB間で契約①(以下「契約」略)はなかったのでAからBに甲所有権は移転せず(555条・176条参照)、甲所有権のないBとの間で②を結んでもCは甲所有権を取得しないのが原則である。

(2)ア また、①はBがAと「通じてした」(94条1項)ものではないので、Cは同2項の直接適用により保護されない。

しかし、CはBが甲所有者だと思っていたのだから同規定の類推適用により「善意の第三者」として保護されないか。

イ 同規定の趣旨はa虚偽の外観作出につきb帰責性ある真の権利者よりもc外観を信頼した第三者を保護して取引の安全を図る点にある。

そこで、a虚偽の外観とbこれについての真の権利者の帰責性、c同外観を信頼した第三者の信頼があれば同規定を類推できると解する

ウ a②の際、Bは甲所有権移転登記を有していた。

bたしかに不動産取引は高額であるため、ある程度の慎重さを要するので、Aには過失が認められる。

しかし、Aは不動産取引の経験がない素人である。またBは不動産業に携わっていた友人で不動産取引に詳しい。そのBが「抵当権の抹消登記手続きに必要である」と最もらしいことを言えばAが信じてもやむを得ない面がある。

このようにAはBに騙されたのであるから、Aの帰責性は小さい。

c このように帰責性の小さいAをぎせいにCを保護するには無過失であることを要すると考える。

Cは②の締結に当たり、甲の登記記録を確認し、Bが甲を短期間で手放すことになった経緯につきBに尋ねたところ、Bは「知らない人と~(以下略)」旨の説明をした。Aが不動産取引の素人であることやBが不動産に詳しく、ABが友人であることは本当である以上、上記経緯には合理的な理由があるといえる。とすると、不動産事業をやっている等の事情がないCは調査確認義務を尽くしたといえ、過失は認められない。

エ よって、Cは「善意の第三者」にあたり、94条2項類推により保護される。

3 Aは甲を占有している。

4 よって、本問請求は認められる。

設問1(2)

第1 請求1

1 本件請求は甲所有権に基づく妨害排除請求(202条1項、198条)と構成できる。

2(1) ③により、Dは甲所有権を取得した(555条、176条)。

しかし、その「登記」を有していないため、Bが「第三者」にあたれば、その取得を対抗できない。

(2) a「第三者」という文言とb不動産取引の安全という177条の趣旨から、「第三者」とは、a当事者及び包括承継人以外の者でb登記の不存在を主張するにつき正当な利益ある者と解する。

(3) a Bは③の当事者AD及びその包括承継人以外の者である。

b BはAと④を締結した。しかし、Bは、Aの③の相手がDであることを知っていた。また、Bは恨んでいたDに損害を与えようと考えて④を結んだから信義則に反する事情がある。よって、Bは背信的悪意者といえ、このような者は自由競争を逸脱しているため、登記の不存在を主張するにつき正当な利益ある者とはいえない。

(4) よって、Dは甲所有権の取得をBに対抗できる。

(5) しかし、甲について所有権移転「登記」を備えたCが「第三者」にあたれば、Dは甲所有権を喪失している。

(6) a Cは③の当事者AD及びその包括承継人以外の者である。

b たしかに、Cは⑤の際、③の存在を知っていた。しかし、BにDを害する意図があったことは知らなかった。よって、Cは単なる悪意者であり、自由競争を逸脱しないから、登記の不存在を主張するにつき正当な利益ある者といえる。

(7) よって、Cは「第三者」にあたるから、Dは甲所有権を喪失している。

3 よって、本件請求は認められない。

第2 請求2

1 本件請求は詐害行為取り消し請求(424条の5第1号、424条の6第2項前段)と構成できる。

2 上記の通り、Cが甲所有権を取得した以上、AのDに対する甲所有権移転登記義務(560条)は履行不能(412条の2第1項)になっているからDのAに対する債権は損害賠償請求権に転化した(415条1項本文後段)。この金銭「債権」は④の「前の原因」たる③に「基づいて生じた」(424条3項)。

「債務者」Aは、事業の不振により債務超過に陥っていたから、無資力といえ、④はAの責任財産を減少させ「債権者」Dを「害することを知ってした行為」といえる(424条1項本文)。

上記から「受益者」Bは④の際「債権者」Dを「害することを知らなかった」とはいえない(同但書)。

3 上記から「受益者」Bに「移転した財産」甲を「転得した者」とCはいえる(424条の5)。

Cは「受益者」Bから「転得した者」(同1号)であり、⑤の際、CはAが十分な資力を有していないことについてBから説明を受けていたので、④が「債権者」Dを「害することを知っていた」といえる。

4 「債権者」Dは「転得者」Cに対する「詐害行為取消請求」において、④の取消しとともに、「受益者」Cに移転した甲所有権移転登記の「返還を請求できる」(424条の6第2項前段)。

5 よって、本件請求は認められる。

設問2

1 本問請求は賃貸借契約に基づく賃料請求(601条)と構成できる。

2 FG間で⑥が締結され、Fは乙をGに引き渡した。

3 (1)このように「建物」乙の「引渡し」があったといえるから、Gは「借地借家法31条」により「対抗要件を備えた」といえる(605条の2第1項)。

そして、「不動産」乙が⑦という譲渡担保契約により「譲渡」されたから「賃貸人たる地位」は「譲受人」Hに「移転する」(ア)。

(2)これに対して、⑦は譲渡担保契約にすぎず「譲渡」にはあたらないとFは反論する(イ)。

(3)譲渡担保契約当事者FHが所有権移転登記をするという形式をとった以上、その意思を尊重して乙所有権はFからHに移転したと解する。そのため、⑦は「譲渡」にあたる。

よって、「賃貸人たる地位」はHに移転するのが原則である。

4 (1)債務αの弁済期が経過するまでFが乙の仕様収益をする旨の合意があるから、乙の「譲渡人」F及び「譲受人」Hが「賃貸人たる地位」をFに「留保する旨」及び乙をHがFに「賃貸する旨の合意」がされたといえるから、「賃貸人たる地位」はHに移転しない(605条の2第2項前段)(ウ)とFは反論するだろう。

(2)Fの反論はおおむね妥当である。

しかし、債務αの弁済期たる令和5年5月31日経過後は「賃貸借が終了した」(同後段)といえるので、「賃貸人たる地位」はHに移転する。

よって、令和5年5月分についての本問請求は認めらるが、同6月分については認められない。

設問3

1 本問請求はKM間の死因贈与契約に基づく所有権移転登記請求(554条)と構成できる。

2 令和6年1月17日、KM間で⑧という死因贈与契約が書面で締結された。

Kは令和9年5月1日に死亡し(882条)、その「子」L(887条1項)がKを包括承継した(896条本文)。

3 しかし、令和8年10月1日、Kは丙をNに遺贈する旨を記載した適式な自筆証書遺言を作成した(964条、967条本文、968条)。

そして、⑧が上記「後の遺言と抵触する」といえるから、「その抵触する」⑧は上記遺言で撤回したものとみなされる(エ)。

4 これに対して、⑧は「書面」でされている以上、贈与者Kの意思が明確になっているから撤回はできない(550条参照)とMは反論する。

5(1) 死因贈与は「遺言に関する規定」を準用する以上(554条)、遺言者意思を尊重する見地から、死因贈与にも1023条1項の適用が認められると解する。

(2) よって、⑧はNに対する遺言によって撤回されたとみなされる。

よって、本問請求は認められない。

以上

【感想】

設問1(1)は「Aはこれを拒むことができるか」という問いにちゃんと答えていなかった可能性がかなり大きいです。

本当にきついです。

何をやっているんだろうと。

こういうところですよね。本当に。

設問1(2)請求1は、「信義則は個別に判断すべき」とか、「Bは『第三者』ではないが無権利者ではない」とか書くべきでした。

そもそも「Cは甲をBから買った」とか書かなかった気がします。

(でも契約⑤は示したような・・・。)

こうやって再現答案を書いていたら普通にわかるのですが、本番でちゃんとできない点が甘いなと思います。

設問3は反論と結論がかみ合っていないように思いました。

民法は全体的に例年より易しかったのかなと思います。

何か見落としがあってほかにも論点があるかもと思って考えましたが、わかりませんでした。

そのため、

「みんなある程度のことを書いてくる」

と思って、趣旨からしっかり論じることを意識しました。

今回の司法試験全体を通じて見直しの時間をしっかり設けることが肝要だと思いました。

せめて5分は欲しいです。

そのため、欲に駆られて加点事由を書きすぎないことが大事だと思います。

今回の失敗は必ず次に繋げます。

ちなみに、民法では「424条と177条の関係」を書こうとも思いましたが、加点事由だろうと思って切りました。

この判断は良かったと思います。

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