令和4年司法試験再現答案:行政法【B評価:公法系87.40点】

設問1

小問1

第1 EFは本問許可という「処分」の取り消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」として原告適格が認められるか(行訴法9条1項)。EFが同「処分」の「相手方以外の者」であるから問題となる(同2項)。

第2 「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利・法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者と解する。そして、当該処分を定めた行政法規が不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含む場合にはこのような利益も法律上保護された利益にあたると解する(9条2項参照)。

第3 Fは土砂等の流失により、生命身体不動産という利益が害されることを主張する(a)。

また、土砂等の流失により水を飲んだり使ったりする利益が害されることも主張する(b)。

Eは土砂等の流失により立木についての利益が害されると主張する(c)。

第4 本問許可の根拠規定は法10条の2第2項である。

1 「土砂の流出又は崩壊その他の災害」、「森林の周辺の地域」という同1号の文言から森林の周辺地域の者の土砂等の災害から(a)の利益を一般的公益として保護することが読み取れる。

2 「水の確保」(2号)という文言から(b)の利益を一般的公益として保護することも読み取れる。

3 「森林の保続培養」(同3項、1条)とは、森林造成には長期を要し、一度開発して土砂災害・水害防止機能や水源かん養機能などの公益的機能が破壊されると回復は相当難しいので、森林の無秩序な開発により森林の持つ機能発揮を阻害しないように、合理的かつ計画的に森林を維持改善することを意味する。とすると、「森林の保続培養」という文言から(c)の利益を一般的公益として保護することが読み取れる。

第5 1(1)大規模に行われる盛り土等の造成による地形の改変は、造成前に比べ、地盤安定を害し、また、山林を伐採すれば、山林の保水力も低下し、土砂による濁水も増え、水源かん養機能を低下させるおそれが高くなる。しかも、本件計画では工事が長期に及ぶ予定だから、その間に集中豪雨により土砂災害や水害が発生する可能性を否定できない。

とすると、本問許可が違法にされると土砂災害等のリスクが高まり、森林周辺住民の生命身体不動産という重大な利益に被害が及ぶおそれがある。

(2) とすると、法10条の2第2項は、土砂災害等により重大な被害が及ぶことが想定される森林周辺住民の生命身体不動産という利益を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解される。

(3) Fは本件開発区域の外縁から200m下流部の本件沢沿いに居住し、過去に数十年に一度の集中豪雨があった際、本件沢からの溢水により、住居が浸水被害を受けたことがあったから、土砂災害により重大な被害が及ぶことが想定されるため、本問許可により、自己の生命身体不動産という利益を必然的に侵害されるおそれのある者といえ、原告適格がこの点で認められる。

2(1)本問許可が違法にされると、安定的な水の確保が困難になり、水が飲めなくなったり使えなくなったりして「生活」(憲法25条1項)が害されるおそれがあり、これが反復継続すれば「健康」という重大な利益が害されるおそれもある。

(2) とすると、法10条の2第2項は、土砂災害等により重大な被害が及ぶことが想定される森林周辺住民の水を飲んだり使ったりする利益を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解される。

(3) Fは、上記の通り本件沢沿いに居住し、本件沢の水を飲料氏や生活用水として使用しているから、土砂災害等により重大な被害が及ぶことが想定されるから、本問許可により水を飲んだり使ったりする利益という法律上保護された利益を必然的に侵害されるおそれのある者といえ、原告適格がこの点でも認められる。

3 (1) 上記の通り森林造成には長期を要し、害されると原状回復は相当困難である。

「森林の有する公益的機能を維持するために必要がある」と認めるときに監督処分が発せられる(法10条の3)ことからも森林にかかる利益を重要なものとして保護する趣旨が読み取れる。

(2) とすると、法10条の2第2項は、土砂災害等により重大な被害が及ぶことが想定される森林周辺の者の森林にかかる立木についての利益を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解される。

(3) Eは、本件開発区域内に林を有しているから、土砂災害等により重大な被害が及ぶことが想定されるため、本問許可により立木についての利益という法律上保護された利益を必然的に侵害されるおそれのある者といえ、原告適格が認められる。

小問2

1 Fは本問訴訟継続中に本件開発行為に関する工事が完了した後においても「法律上の利益を有する者」(9条1項かっこ書き)として訴えの利益が認められるか。

2 「前条第1項の規定に違反し」(法10条の3)とは、客観的にみて開発許可基準の要件を満たしているかで判断すべきである。

とすると、開発許可は工事着手前の計画に対する公権的判断に過ぎず、工事完了後の監督処分の判断には影響しないと解する。

とすると、工事完了後に開発許可を違法であるとして取り消されても、監督処分を発すべき法的拘束力は生じない(行訴法33条)。

よって、開発許可は、それを受けなければ開発行為ができないという法的効果を有するにすぎず、開発行為の工事が完了すれば、開発許可という「処分~の効果が~なくなった」といえ、その「後においてもなお処分~の取消しによって回復すべき法律上の利益を有する者」とはいえない。

3 よって、Fは「法律上の利益を有する者」とはいえないから、訴えの利益が認められない。

設問2

1 F主張

(1) 法10条の2第2項の「認める」という文言からB県知事の要件裁量が認められる。また、水源確保対策等の必要性や措置の妥当性の評価などに関する知事の専門技術的判断もあるため、この点でも裁量を認めざるを得ない。

しかし、本問許可によりFの上記重大な利益が害されるため、知事の裁量は狭いと考える。

(2) 本件許可基準は審査基準(行手法2条8号ロ)かつ裁量基準である。

ア 本件許可基準のような審査基準が定められて公にされているのは、行政庁の行政運営の便宜を図るだけでなく、処分の判断過程の公正・透明性を確保して、住民の権利利益を保護するためでもある。とすると、裁量権行使における公正平等な取り扱いの要請や基準に対する信頼保護の見地から、その基準と異なる処分をするのが相当といえるような特段の事情がない限りそのような処分をするのは裁量の逸脱濫用として違法になると解する。

イ  本件開発区域は、総面積の98%がA所有林、2%がE所有林であるところ、Eの同意書が添付されていない以上、「3分の2以上の同意」(本件基準1-1-①)を満たさないため、本問許可は同基準違反がある。

特段の事情は本件にはない。

よって、本問許可は裁量の逸脱濫用として違法である。

2 B反論

本件開発区域は、98%というほとんどをA所有林が占めるから特段の事情が認められる。

よって、本問許可は裁量の逸脱濫用にあたらず、適法である。

3 F主張

本件認定の根拠規定たる本件条例(以下「条例」)7条3項の「規制対象事業場」は、「水道にかかる水源の枯渇をもたらし、又はそのおそれのある工場その他の事業場」であることを要する(2条5号参照)。このような判断には専門技術的判断を要するから市長の裁量が認められる。

本件計画によれば、Aは本件開発区域全域に本件貯水池のほか複数の井戸や貯水池を設置して事業用水等を確保する予定である。本件開発区域を含むD山の山林はC市の水道水源の一つだから、Aによる事業用水の取水や貯水によってC市の水道資源が枯渇するおそれがあった。

そのため、このおそれを解消するため、本件計画の阻止を意図して行った本件認定は適法である。

それにもかかわらずなされた本問許可は違法である。

4 B反論

本件認定はAの土地利用を制限するもので財産権(憲法29条1項)という重大な利益を制約するものである。とすると、C市長の裁量は狭いと考える。

C市長が丁寧に協議を行い、Aの協力を得ることができれば、水道水源の枯渇という問題は生じない。このことを考慮しなかったのは裁量の逸脱濫用といえ、本件認定は違法である。

本件認定は違法で取り消されるべきものであるため、本問許可は適法である。

【感想】

今のところ最もしくじった感がある科目です。

食べ忘れもあり、空腹感とも戦っていたのでイマイチ集中できませんでした。

実力者ではないぼくにとって紙一重の勝負になるので、これが運命を分けたかもしれません。

労働法の悔いよりもここでの悔いのほうが大きいです。

でもここでしくじったことにより、同じしくじりはこれ以降しませんでした。

行政法は一番苦手に思っているので、他科目で同じミスをするよりはマシだと思って切り替えました。

(それにしても、司法試験は休憩が結構短いです。

お昼休憩以外だと実質30分もありません。)

設問1小問1の原告適格はあてはめも含めてもう少しめちゃくちゃだったかもです。

小問2は時間が無かったこともあり、論証パターンの貼り付けみたいになりました。

「開発許可の要件」と書かないといけなかったところを「開発許可『基準』の要件」とかバカなことを書いたと思います。

構成用紙にはそう書いてありました。

設問2は書きたいことが3つあったうちの2つしか書けませんでした。

最後の「以上」も書けず、途中答案感を出してしまいました。

どんなことを書けばよいかもよくわからず、1つ目は裁量の逸脱濫用で行訴法30条を書き忘れたかもしれません。

2つ目もいろいろミスが見つかっています。

行政法は予備試験と司法試験の乖離を最も感じていた科目です(2番目は憲法)。

再現答案を見て、自分のできと他の受験生のできの差に愕然としました。

そのため、一番書きました。

それで当初と比べるとだいぶ良くなりました。

(それもあり、予備試験のときは処理手順の定着が甘かったなと思います。)

とはいえ、それでも他の受験生と比べるとまだまだすぎます。

特に今年の行政法は例年より易しめだったと思われるため、なお書き負けてしまっていると思われます。

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