令和5年予備試験民法:参考答案

設問1

本問請求は請負契約(632条)に基づく請負報酬請求と構成できる。

令和5年7月1日(以下「令和」略)の本件請負契約締結に先立つ同6月15日頃までに甲は原型をとどめないまでに腐敗し、修復できなくなってしまった。

そうすると、同「契約に基づく」Bの甲を修復する「債務の履行がその契約の成立時に不能であった」といえる。しかし、そのような場合も415条の規定により損害賠償請求できる(412条の2第2項参照)以上は、同契約は有効である。

ではどの範囲で報酬が認められるか。

たしかにAの言うように甲が現に修復されていない以上は、250万円の報酬(本件請負契約(3))は認められないようにも思える。

しかし同契約締結にあたり、BがAに甲の保管状態や現在も修復可能かを尋ねたのに対し、Aは大丈夫だと答えた。Bは個人宅での甲の現在の状態に疑念を抱き、「修復不能なほどに傷んでいた、などと言われても知りませんよ、」などと念押ししたうえで同契約を締結した。さらに、同契約の交渉過程において、Bは数回にわたって甲の状態や保管法についてAに尋ねていた。そうすると、Aは同契約にあたり甲の状態を確認しないといけなかった。しかし、Bは問題ないと答えるのみで甲を放置しており、確認を怠っていた。さらに、Aは個人宅における掛け軸の標準的な保管法に反し、甲を紙箱に入れたのみで湿度の高い屋外の物置に放置していたので不適切な保管をしていた。よって、Aが書画骨董品の収集を趣味とする個人(素人)であり、Bが京都に店舗を有し、専門の事業者であるとしても「債権者」Aの「責めに帰すべき事由によって債務を履行~できなくなった」といえるから、Aは反対給付たる250万円の支払いについての「履行を拒むことができない」(536条2項前段)。

なお、Bは5年7月2日から同月10日にかけて、甲の修復に要する材料費等の費用の一切として40万円を支払っている。そのため、その費用をすでに払っている以上は「自己の債務を免れたことによって利益を得た」(536条2項後段)と言えない。

よって、250万円の範囲で本問請求が認められる。

設問2

(1)

1 本問請求は所有権に基づく返還請求(202条1項、200条1項)と構成できる。

2(1)Cが甲所有権を有していたところ、本件委託契約が締結された。

5年6月1日、CはBに対し、同契約の契約条項(3)に基づき乙の返還を請求する旨の通知を発し、同通知は同日中にBに到着した。そうすると同(3)により、Bは乙の売却権限を失った。そうすると、同6月2日にBD間で売買契約(555条)が締結されても甲所有権はCにあるのが原則である。

(2)しかし、Dは甲所有権を即時取得(192条)しないか。

192条の趣旨は真の権利者の犠牲の下、前主の占有を信頼して取引をした者を保護する点にある。しかし、外観からわかる占有取得がなければ、真の権利者が知らぬ間にその権利を即時取得され不公平である。そこで、「占有を始めた」とは外観からわかる占有取得と解するべきである。

Bは同契約成立直後Dに対して「乙は以後DのためにBが保管する」と告げ、売却済みの表示を施した後Bは乙をBの店舗のバックヤードに移動した。そうすると、Dは占有改定(183条)により占有取得したにすぎず、外観からわかるものではないため「占有を始めた」とはいえない。

よって、Dは甲所有権を即時取得しない。

3 よって、本問請求は認められない。

(2)

1 本問請求も所有権に基づく返還請求(202条1項、200条1項)と構成できる。

2 CはBに対し、乙をBの店舗内で顧客に展示し、Bの名において販売する権限を与えていた。そうすると、Bは「本人」と言いうるC「のためにすることを示してした意思表示」(99条1項参照)としてDと売買契約をしたわけではない。よって、Bの同権限が消滅してもCは「他人に代理権を与えた者」(112条1項)にもあたらない。

しかし、同条項の趣旨は消滅した権限を信頼した第三者を保護して取引の安全を図る点にある。そこで、(a)権限の消滅後にその権限の範囲内において第三者と取引行為があり、(b)その権限消滅の事実を第三者が過失なく知らなかった場合は同条項が類推適用されると解する。

(a)Bは上記権限消滅後にBの店舗の顧客であるDと売買をしたから、その権限の範囲内での取引行為が認められる。

(b)DはBに質問する際に、Bから本件委託契約の契約書を示され、Cから委託を受けて、Bは乙の売却権限を有している旨の説明を受けた。さらにBD間売買契約時もDは乙について、Bは本件委託契約に基づく処分権限を現在も有していると信じていた。元々契約書を示されているうえ、顧客に過ぎないDは調査確認義務違反もないから上記のように信じたことにつき過失はない。

よって、同条項が類推適用される。

よって、Bに乙所有権の処分権限があるものとして上記売買がされたことになるから、乙所有権はCからBひいてはDに移転する(本件委託契約(3))。

3 Dは乙を自宅に持ち帰り、乙を占有している。

4 よって本問請求は認められる。

【感想】

難しい知識は問われていないのですが、特に錯誤は思いつきませんでしたし、分量的に難しかったです。