第1 甲は、Vの首を背後から力いっぱいロープで絞めた行為1の後に、Vを海に落とす行為2をしている。
行為1がされたのは某日15日午後10時頃で、行為2は同日午後10時半ごろに行われ、時間差は30分ほどである。また行為1が行われた場所と行為2が行われた場所は1キロメートルほど離れているが、行為1~2の間は車により移動している。とすると、行為1と行為2は時間的・場所的近接性があるといえる。
そして、行為1は行為2を容易かつ確実に行う上で必要不可欠だった。
さらに、行為1に成功した後、Vの死体を海中に捨てる計画を遂行する上で障害となる特段の事情はなかった。
とすると、行為1と行為2は1つの行為3と捉えることができる。
この行為3に殺人罪(199条)が成立しないか。
まず背後という気づきにくいところから、行為3のうち行為1はされている。そうるすと、Vは抵抗しづらいだろう。また、Vの首という“急所“を“力いっぱい“ロープというひも状の物で締める形で行為1はされている。とすると、行為3のうち行為1はVの生命侵害の現実的危険ある実行行為といえる。
Vは溺死したのでVの生命侵害結果が発生した。
行為1がなければ、Vは失神せず、甲がVが死亡したものと軽信することもなく、行為2をすることもなく、Vが溺死することもなかったから行為1と上記結果には条件関係がある。
また、行為1はそれだけでは死に至らず失神するにとどまることも考えられ、失神したVを甲が死亡したものと軽信し、行為2をして、Vを溺死させる現実的危険もあったから、行為1の危険が結果に現実化したといえる。よって相当因果関係もあるといえる。
一連の殺害行為に着手して、その目的を遂げた以上、殺人「罪を犯す意思」(38条1項本文:故意)も認められる。
よって、甲の行為3に殺人罪が成立する。
第2 甲が、Aと、某日16日にAが2000万円を甲に渡し、それらと引き換えに、甲が所有権移転登記に必要な書類をAに交付し、同日に本件土地の所有権をAに移転させる旨合意した行為4に横領罪(252条)が成立しないか。
本件土地はVという「他人の」所有する「物」である。そのVから、Vが登記名義人である本件土地に抵当権を設定してVのために1500万円を借りてほしいとの依頼を受け、甲は承諾し、Vから同依頼にかかる代理権を付与され、本件土地の登記済み証や委任事項の記載がない白紙委任状等を預かったから本件土地は甲という「自己の占有」するものであり、その占有はVとの委託信任関係に基づいていた(254条と区別するための構成要件)。
ここで、横領罪の本質は委託信任関係に背いた本件侵害にあるから、「横領」とは、不法領得の意思(委託の趣旨に背き、そのものにつき権限がないのに所有者でなければできない処分をする意思)の発現行為と解する。
甲は上記のとおり、本件土地に抵当権を設定してVのために1500万円を借りる権限しかないので、本件土地を売却するといった行為4はVとの委託の趣旨に背き、本件土地につき権限がないのに所有者でなければできない処分をする意思の発現行為といえる。
甲が、銀行等から合計500万円の借金を負っており、その返済期限を徒過し、返済を迫られている状況にあったことから、本件土地の登記済証等をVから預かっていることやVが海外に在住していることを奇貨として、本件土地をVに無断で売却し、その売却代金のうち1500万円を借入金と称してVに渡し、残金を自己の借金の返済に充てようと考えて行為4が行われたこととその態様から横領罪の故意が認められる。
第3 第1と第2の罪は併合罪(45条)となる。
以上
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