設問1
第1 X1は、Yに対して、本件配置転換が無効であるとして、倉庫部門で就労する義務がないことの確認を求める民事訴訟を提起することが考えられる。
第2 1 労働条件対等決定原則(労基法2条1項)や合意原則(労契法3条1項・8条)から、配転命令の根拠としては労働契約の締結だけでなく、就業規則等における契約上の根拠を要する。
2 本件配転は、Y就業規則の規定に基づくから、契約上の根拠がある(7条本文)。
第3 1 黙示の職種限定合意が認められて、X1との関係でYの配転命令権が否定されないか(7条但書参照)。
2 黙示の職種限定合意の成否は①採用時における職種特定の有無、②職務の専門性、③当該労働者の勤続態様、④職種を同じくする他の労働者の勤続態様から判断される。
3 たしかに、②運行管理者は専門職であり、その資格を得るには、事業用自動車の運行管理に関する5年以上の実務経験を有し、かつ、その間に所定の講習を5回以上受講していること等の要件を満たすこと、又は運行管理者試験に合格することが必要である。そして、Yは自動車運送事業者であるから、営業所ごとに保有車両数に応じた一定の人数以上の運行管理者を選ばなければならない。
また、①X1採用時に、Yは、それまで他の運送事業者において約10年間勤務し、その間に運行管理業務等に従事した経験を有するX1を、それらの経験や運行管理者の資格を有する点を評価し、正社員として採用した。
しかし、①その際の契約には職種や業務を限定する定めはなかった。
また、採用決定時、YはX1に対して、「『当面は』運行管理者をお願いする」と口頭で告げたにすぎない。
さらに、③X1が運行管理者としてYにおいて運行管理業務に従事したのはわずか1年である。
④他の運行管理者に配転がなかったとの事情もない。
4 よって、YX1間で黙示の職種限定合意は成立しておらず、YのX1に対する配転命令権は否定されない。
第4 1 配転命令権は権利濫用法理(3条5項)に服す。
2 配転命令には使用者に原則として広い裁量が認められているから、①業務上の必要性がない、②不当な動機・目的に基づく、③労働者に通常甘受すべき程度を超える著しい不利益を与えるといった特段の事情がない限り、権利濫用にはあたらないと解する。
3 ①乗務員の間にX1の乗務指示の割り振りに対する不満が貯まっているとの情報にYは接していた。そんな中、X2を含む乗務員数人と面談したところ、前記情報の通り、多くの乗務員がX1の乗務指示の割り振りに不満を持っていることが確認された。
この面談の際、X2は、Yに、「軽微ではあるが事故を起こしてしまい、不安で常務に集中できないことがある」などと言っていた。事故を起こせば人の生命等にかかわるし、Yの信用も落ちるため、Yにとって重大なことである。
しかし、X1は面談において乗務員の不満の原因は人員不足等であるとして、高速道路の使用は不可欠である等言っていた。
よって、X1には運行管理者としての適性が十分に備わっているとはいえず、引き続き運行管理業務に従事させるのは不適当であると判断されたことから、配転命令の業務上の必要性があった。
②上記事情や運行管理者資格を有するものをほかに手配できる見通しがあったため、不当な動機・目的に配転命令が基づくとはいえない。
③たしかに、倉庫部門では時間外労働がほとんどないため、その分の賃金減少が見込まれたし、実際にそうなったのだろう。
しかし、本件配転によりX1の基本給等の所定内賃金には変更はなかったから経済的な不利益は大きくない。また、X1が運行管理業務を行っていた場所と倉庫部門の倉庫作業員として業務に従事することとなる倉庫は、Yの同一敷地内にあったから私生活上の不利益もない。
さらに、X1は倉庫部門においてはその作業の管理を任されていため重要な役割を与えられていた。
とすると、倉庫部門では作業管理を行うためのシステムや設備が存在せず、仕分け等の作業しかなく、また、倉庫部門の中で正社員はX1だけで他の作業員は全て有期労働契約者であり、X1のモチベーションが下がり、肉体的疲労も強くて、本件配転に強い不満を抱いていたとしても、労働者X1に通常甘受すべき程度を超える著しい不利益を与えるとはいえない。
4 よって、特段の事情はないため、本件配転は権利濫用にはあたらない。
第5 よって、本件配転命令は適法だから、X1の本問請求は認められない。
設問2
第1 X2は有期雇用労働者であるから19条の適用により契約更新が擬制されないかが問題となる。
第2 1 ①同1号は実質的に無期労働契約と同視できる場合を意味し、②同2号は契約更新に対する合理的期待が認められる場合を意味する。
2 ①Yで契約更新手続きが形骸化していた事情はないからX2Y間契約が実質的に無期労働契約と同視できるとはいえない。
② X2Y間では1年の契約が5回にもわたり、反復継続的に更新されている。
しかし、契約更新の際に「契約期間を通算した期間が5年を超えて更新することはない」とされており、X2はこのことについて採用時に説明を受けていた。
また、令和3年4月の契約書には「更新はない」と記載されていたし、X2は署名という慎重な手続きもしている。
とすると、契約更新に対する合理的な期待はないように思える。
もっとも、1年という相当期間後のことについて、X2が「今確認する必要はない」と思ったのは不合理とはいえない。
また、当初から5年という期間が付され、倉庫作業員が令和4年5月1日時点で、倉庫作業員が2名不足していたことを考えると、18条の無期労働契約への転換申込みの承諾みなしを潜脱する目的がうかがわれる。とすると、契約当時と令和3年4月の更新しない契約は公序良俗(民法90条)に反し、無効である。
よって、契約更新に対する合理的な期待が認められる。
よって、9条2号に該当する。
第3 X2は令和4年4月、Yに対して、労働契約の更新を求めたので「労働者が当該有期労働契約の更新の申し込みをした」といえる(9条柱書)。
これを「使用者」Yが拒否(「拒絶」)した。
X2は、乗務員であった時期に輸送した物品に関する豊富な知識があったことから、職種変更後の倉庫業務にやりがいを感じ、その知識をいかして同僚にも有効なアドバイスをするようになり、周囲から頼られる重要な存在になっていた。
また、上記の通り18条の潜脱目的や人員不足の事情もある。
とすると、上記拒絶に「客観的に合理的な理由」は認められない。
よって、Yの承諾がみなされ、契約更新もみなされる。
第4 よって、X2は、Yに令和4年5月1日以降も雇用され続けているから、X2の見解は妥当である。
以上
【感想】
問われていることは加藤ゼミナール労働法重問で問われていたことだと思います。
第2問で当初のしくじり(倒産法を解く)をある程度挽回していたので、第1問は割と余裕がありました。
最後の行から2番目まで書けました。
内容が合っているかはわかりません。
・この記事を見た人は以下の記事も読んでいます。