第1 設問1
BはAの暴行状況を見ていたので、「罪証」(207条1項、81条)にあたる。そのBをAが、Aの仲間に報復するよう命じてBの供述をAの暴行について何も知らないというふうに変えさせることが考えられる。AはBの中学の先輩で、上記のように供述を変えさせるのはAに有利なので、客観的可能性がある。また、Aは本件被疑事実についてやっていないと述べ、2月1日午前1時は犯行場所とは別の場所にいたとも述べている。さらに、Vは全治約2か月を要する助骨骨折という重傷を負わせたのでその罪は重く、罪から逃れようとする意識が強く働くといえる。よって、主観的可能性もある。以上のことからAが「罪障を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある」(207条1項、81条)といえる。
第2 設問2
直接証拠とは要証事実(本問では、本件被疑事実記載の暴行に及んだのがA及びBであること)を直接証明する証拠をいう。③から黒色キャップの男と茶髪の男が本件被疑事実の暴行に及んだことが認定できる。また、男たちのうち茶髪の男がBであることも認められる。よって、③は本件被疑事実記載の暴行に及んだのがBであることを直接証明する直接証拠である。一方で、③は、本件被疑事実記載の暴行に及んだのがAであることを直接証明する直接証拠ではない。③は上記のとおり黒色キャップの男が本件被疑事実記載の暴行に及んだという間接事実を証明する間接証拠である。ここで、⑦はAとBが平成31年2月1日に一緒にいたことを推認させる。また、⑥から、黒色キャップ等、Bと犯行時に一緒にいた男と同じような服装や所持品が同年2月28日にA方にあった事実が認められる。⑥から認められる事実と⑦から推認される事実から、犯行時にAとBが一緒にいた事実が推認され、これと上記間接事実が相まって、本件被疑事実記載の暴行に及んだのがAであることが推認される。
第3 設問4
AがVに暴行を加えた旨を話したことは、「弁護士」(弁護士職務規定23条)たるAの弁護人が「職務上知りえた秘密」といえる。とすると、Aは「正当な理由なく」その「秘密を他に漏らして、又は利用してはならない」。
ここで、仮に被告人が被疑事実を認めても、それが証拠によって認定されない限り被告人は無罪と解する。とすると、まだ被疑事実が証拠で認定されていない以上、「正当な理由」があるといえないため、Aの弁護人は、上記秘密を漏らしたり利用したりせず、無罪を主張すべきである。
また、上記のように無罪と解される異常、「被告人」(82条)Aの「防御権」のために無罪であることが「真実」(5条)なのでAの弁護人はその「真実を尊重」すべきである。さらに、Aが「一切暴行を加えていないとして無罪を主張したい」旨話した以上、そのとおり主張するのが「依頼者」(22条1項)Aの「意思を尊重」することになる。そして、そのように主張することが「被告人」(46条)Aの「権利及び利益を擁護するため、最善の弁護活動」となる。
以上のことから、Aの弁護人の無罪主張に弁護士倫理上の問題はない。
第4 設問5
検察官(以下、「P」)が取り調べを請求した証拠
⑫
Pがすべき対応
⑫は、供述内容の真実性が証明されたら、Aの本件暴行等の認定につながるので、供述内容の真実性を証明するための「供述」証拠である(320条1項)。この「供述」証拠は知覚・記憶・表現・叙述の各過程に介入するおそれのある真実に反する内容を公判廷において反対尋問(憲法37条2項前段)等でチェックしなければ類型的に誤判の危険がある。
しかし、⑫は「公判期日における供述に」代える「書面」なので、その内容たる供述は公判廷で反対尋問を経ていないので、証拠能力がないのが原則である(伝聞法則:320条1項)。もっとも、「迅速に」「事案の真相を明らかに」(1条)するために、反対尋問に変わる信用性の情況的保障、証拠としての必要性があれば、伝聞例外が認められている(321条~)。
まず、弁護人が⑫を証拠とすることに「同意」(326条1項)すれば証拠能力が認められるが、不同意とした場合にPはどのように対応すべきか。
ここで、Bはあくまでも相被告人Aとの関係では「被告人以外の者」(321条1項柱書)である。また、⑫には「供述者」Bの「署名」・「押印」はあるだろう(198条5項)。さらに、⑫は「検察官の面前における供述を録取した書面」(321条1項2号」であるから同条項号の要件を満たせば、証拠能力が認められる。
Bは「前の供述」たる⑫で、Aが暴行したことを述べているが、「公判期日において」は、「Aが何をしていたのかは見ていないので分からない」旨を証言しており、これは「前の供述と相反する~供述をした」といえる(321条1項2号後段本文)。また、Bは自身の審理における被告人質問で、Aの暴行について「逮捕された当初も話していたが、途中からAに報復されるのが怖くなり、Pにきちんと話すことができなかった。」と言ってることから、Aに対する本件被告事件の審理でも、Aの報復をおそれていることが認められる。よって、「公判期日における供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況の存するとき」(同条同項同号後段但書)といえる。
以上のことから321条1項2号の要件を満たすので、これを主張すべきである。
第5 設問3
前者について
これは、Aが歩いているときに、いきなり後ろから肩を掴まれたため、驚いて勢いよく振り返ったところなったものであるため、たまたまである。
また、突いたのは2回ではなく1回である。
後者について
これは、傘が当たったことに腹を立てたVが、拳骨で殴り掛かってきたので、Aは自分がやられないように、また、Vが両手でAの両肩をつかんで離さなかったために、逃げたい一心で行ったものである。よって、これは正当防衛(刑法36条1項)である。
以上
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