令和元年予備論文試験再現答案:刑訴【B評価】

第1

「全三条の規定による勾留の請求」(207条1項本文)との文言から、公平中立な第三者的地位にある裁判官が逮捕勾留の前にそれぞれ審査(計2回)することで、被疑者の人権を保障することが予定されている。また、逮捕に違法性があれば、本来「留置の必要がない」(203条~205条)として釈放されるはずだし、逮捕に対する準抗告が認められていないのは逮捕の違法性について「勾留」(429条1項2号)段階で審査することが予定されているためである。とすると、勾留請求するには適法な逮捕の前置を要する。もっとも、逮捕の違法性が軽微な場合は迅速な刑罰権実現のために勾留請求が許されると解する。

第2

Pらが抵抗する甲をパトカーの後部座席に座らせ、その両側にPとQが甲を挟むようにして座った上パトカーを出発させ、H警察署で取り調べをした一連の行為1は、Pらという捜査機関が窃盗「罪があると思料するとき」に「犯人」の確保、「証拠」の保全・収集のための「捜査」と解する(189条2項)。人相及び着衣が犯人と酷似する甲を認め、本件事件の犯人ではないかと考え、甲を呼び止め質問した後、“V名義“のクレジットカードが路上に落ちた後に行為1がなされたからだ。

では、「強制の処分」(197条1項但書)にあたるか。同規定の強制処分法定主義の趣旨は、人権を制約する強制処分を国民代表機関たる国会(憲法43条1項、42条)が法定した(41条)ものに限ることでできる限り人権を保障する点にある。とすると、「強制の処分」とは、重大な権利・利益の制約を伴う処分と解する。

本問で、甲は、「俺は行かないぞ。」と言い、パトカーの屋根を両手でつかんで抵抗したのに、行為1がなされたので、行為1は甲の合理的意思に反して身体・移動の自由(憲法22条1項参照)という重大な権利・利益の制約を伴う処分といえ、「強制の処分」にあたる。

その「強制の処分」の中でも実質的に身柄を拘束して、指定された場所に引致し、比較的短時間の留置をもらたす逮捕にあたる。

第3

行為1の時点で通常逮捕(199条)されたとなると、「裁判官のあらかじめ発する逮捕状」が必要だが、行為1を始めた当初なかったので、通常逮捕は違法と思える。

しかし、この違法性は軽微なものと言えないか。

本問で甲がPの同行の依頼に対して黙って立ち去ろうとした後、甲のズボンのポケットから“V名義“のクレジットカード(以下、「クレカ」)が落ちた。“V名義“であるからクレカは本件事件の盗品と思われる。

ここで、盗品は犯行時犯人が所持していたものであり、甲が犯罪と無関係にクレカを所持することは通常考え難く、入手経路につき合理的な弁解がない限り、甲が犯人であり犯行時からクレカを所持していることをうかがわせる。本問で甲はクレカについて、「散歩中に拾った。落とし物として届けるつもりだった。」と述べたが、落とし物として届けるつもりだったのならPらに渡せばよかったのである。また、V方から8キロメートル離れた場所に本件事件の盗品であるクレカが落ちてることは考え難い。とすると、甲の弁解は不合理であるから甲が犯人で犯行時からクレカを所持していたことをうかがわせる。

そして、本件事件があったのが令和元年6月5日午後2時で、Pらが甲を見つけたのは同月6日午前2時30分ごろと、12時間ほどしか違わない。この短時間のうちに他に犯人がおり、その者を経由してクレカを甲が入手した可能性は低いので、この犯人性の推認力は高い。

また、上記のようにクレカを落とした後、立ち去ろうとしたのは犯罪の発見を免れるため(後足)と思われるからここでも犯人性の推認力が働く。

甲がクレカを所持してたことと後足から甲が窃盗「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある」(199条1項)といえる。

そうすると、行為1の逮捕の違法性は軽微なものといえ、迅速な刑罰権実現のために勾留請求することができる。

第4

第3にある甲のクレカ所持と後足により、甲が窃盗「罪を犯したと疑うに足りる相当な理由がある」(207条1項、60条1項柱書)といえる。

第5

以上のことから、本問勾留は適法である。

                                     以上

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